以前の記事「ナンテンによる木工芸」で、ナンテンによる耳かきの製作例をご紹介しました。
記事中に、お箸を作るには直径30mmくらいの大きな幹が必要で、それを得るのは簡単ではない、としていました。
今回、自宅庭から得られる最大径の材から、お箸が製作可能か試してみました。
庭の南東隅にあるナンテンの株です。どこからか飛んできた種から育ったものです。年数はそれほどたっておらず、右側の斜めの幹がいちばん太いので、これをノコギリで切って使うことにしました。
ナンテンの剪定材です。木材としては細いですが、重みを感じます。細いので、乾燥は3ヶ月ほどでしたが、もう少し乾燥させておいたほうがよかったかもしれません。
コンビニ弁当の割り箸を、参考においてみました。
材の屈曲具合から、あまり長いものは期待できません。手元の割り箸程度の長さが限度とみて、長さは欲張らずに切断し、製作を開始します。
材の端面です。直径は最大で20mmを超える程度、ひび割れや虫害があり、そこここに痛みや変色も見られます。
四分して二膳を作るのは難しく、二分して一膳作れるかどうか、というところです。
材としては、厳しいスタートとなりました。
糸鋸盤で、材を二分割します。
ベルトサンダーで、箸の形に研削整形していきます。
カンナなどの刃物を使うのが、より正式な箸の製作方法だと思いますが、私の場合、効率を優先してベルトサンダーを用います。
材の痛んだところなどを削っていく形で、研削していきますが、変色した部分を一掃することは到底できず、キズ(欠点)がある程度残った状態で、妥協せざるを得ませんでした。
また、キズの除去を深追いしたこともあってか、若干のそりも生じてしまいました。
ちなみに、ベルトサンダーを使って材を箸に整形する作業は、木工作業の中では、比較的に容易な部類に属します。直角と、2本を同じ形(太さ)にすること、に注意しつつ、少しずつ作業を進めていきます。
また、細長い物ですので、強く研削すると、サンディングベルトに材が持っていかれ、飛ばされてしまいます。指先を傷つけないように注意しながら、軽く、慎重に作業します。
なお、画像ではよくわからないかもしれませんが、白木(未塗装)の状態でも、ナンテンはかなり黄色味が強く出ます。
一回り太めに整形した段階で、「木固めエース」で含浸塗装をし、木材を強化します。
ナンテンはかなり丈夫で緻密な木材なので、「木固めエース」の工程はなくてもよいかもしれません。
箸の整形を続ける一方、ナンテンの端材から、箸置きも製作します。
糸鋸盤、ベルトサンダー、サンディングホイル、曲面紙やすり、スポンジやすりを使って、研削整形していきます。
おおむね形ができてきました。
かなり出来上がってきた状況です。ナンテンの残り材と並べてみました。
箸、箸置きとも、機械で研削した後は、手作業で曲面紙やすりをかけ、最後はスポンジやすりで仕上げます。
もう一度木固めエースで含浸塗装し、表面をスポンジやすりで軽く磨き落とします。
仕上げ塗装は、今回も拭き漆としました。
拭き漆による仕上げは、全体のトーンが落ちていわば「拭き漆色」になりやすく、木肌によっては漆が浸み込んで黒っぽい箇所が目立ったりするのですが、ナンテンは緻密なので拭き漆との相性は比較的によいと思います。
今回は、三回の拭き漆作業での仕上げとしました。
ナンテンの箸 : 長さ 19.9cm 太さ(断面の正方形の一辺の最大) 5.4mm 2019年
ナンテンの箸置き : 長さ 5.0cm 2019年
よく見るとかなり欠点もありますが、これで完成といたしました。
ナンテンの黄色味は残しつつ、拭き漆により、落ち着いた仕上がりになったと思います。
ナンテン(南天)は、木材としてはかなり優秀だと思います。
丈夫で緻密であり、しかも、ところにより光の当たり方により濃淡が変化する「杢」が生じます。
最大の問題は、径の大きなものが少ない、ということです。
ナンテンのお箸の製作については、径の大きな材の入手可能性に尽きる気がします。
(注)ナンテンは、毒性をもつ植物とされています。工芸に用いられる場合は、自己の責任においてなされるようお願いいたします。