花車の構想段階から、「車輪にはこだわりを持つ」としてきました。
今、花車が組み上がってみると、車輪だけが、問題のある出来になっています。
いわゆる「公式側」の車輪が、車軸に対して垂直ではなく、わずかに斜めになっている問題です。
当初は、車輪の傾きは、「あるにはあるが、花車を動かしたときに車輪が振れているようには見えない程度のもの」という認識でした。
しかし、それは、ゆっくりと短い距離を動かしているからであって、長い距離をそれなりの速度で動かすと、振れていることは明らかでした。
もうひとつの車輪(非公式側)は、振れが非常に少なく、これは問題なしとしましたが、公式側の車輪は、ほかの木材で試験的に作った車輪を含め、振れが最大でした。
・どうしてこうなったのか、がひとつの問題。
・車輪を分解して組みなおすのか、がさらに深刻な問題。
木固め塗装を施した後でもあり、分解補修にはリスクが伴います。優良な木材はほとんど使ってしまい、新たに作るような余裕は到底ありません。うまく分解できなければ、全体として失敗となります。
しばらく問題を放置し、他の工作(花箱など)をやりながら、かなり悩んだのですが、出来に満足がいかない以上、分解することにしました。
木工用ボンドによる接着は、十分な水分と熱を与えれば、外すことができる、というのがネット情報でした。実際、床板の製作で、いったん接着乾燥した部材をやかんの沸騰水蒸気で外したことがありました。
今度の場合、接着部が奥まっていて見えない場所であること、木固め材がどの程度影響を及ぼしているか不明であること、そして、分解したくない部分があること、が問題でした。車輪外輪は、きれいな円盤になっているので、ここの接着は緩ませてはいけないわけです。
分解に先立って、沸騰水蒸気を当てたくないところに、保護材を当ててマスキングします。
沸騰水蒸気が車輪本体を破壊しないように、車輪の両側を、MDFから製作したドーナツ状部材で覆い、隙間をマスキングテープでできるだけ塞ぎました。輻と輻の間にも、細く切ったマスキングテープを通してあります。
また、轂もマスキングテープで覆って、木材をいためないように準備します。
やかんをカセットコンロにかけ、沸騰水蒸気(湯気)を勢いよく出させて轂と輻の接着面付近に当て、時々捩ったり捻ったりしながら、慎重にはずすことを試みます。
何とか外れました。下は、分離したあと、古いボンドを除去した後の状況です。
さて、次の問題は、傾いた原因です。実はこれがわかってませんでした。
上の写真に写っている車輪接着治具に、精度の点には絶対の信頼を置いていましたので、おそらく治具への取り付けに甘さが(作業上のミス)あったのであろう、という判断で、慎重に作業して、再接着をしました。
それが冒頭の写真です。成功しているつもりなので、なんとなくムードのある雰囲気に撮る余裕がありました。
ところが、結果は最初と同じでした。最初と同じだけ、傾いていました。
再び葛藤です。何度やってもこれなら、そういうものと割り切るしかないか、という思いもおきてきます。今度再分解したときに、分解に失敗する可能性もあります。
妥協するか、またやり直すか。
再分解するか決断する前に、今度は原因を真剣に考えました。
同じ失敗をしたということは、作業の問題ではなく、それ以前に原因があったことになります。
とすれば、輻が均等に外輪に刺さっていないことと、輻が外輪にしっかりと嵌っていて、遊びがないために治具による接着時に修正が効かなかった、ということが原因として推察されます。
試作段階で他の木材(欅など)で作った車輪では、輻が嵌る穴が大き目で、しかもかなり浅かったので、治具での接着段階で矯正ができていたようです。輻と外輪はボンド付けしていないので、比較的に簡単に動いたということです。ここから組立て用治具への過剰な信頼が生じていました。
本番では、穴が小さくて深かったため、輻の外輪への嵌り方ははるかに硬くしっかりしていました。
それならば、ということで、再分解して修正することにしました。
どこが傾いているのかをあらかじめ記録した上、再び沸騰水蒸気による分解をしました。
さきに使ったMDFのドーナツ状部材は、水蒸気で波打っていましたので、新たに作り直し、再びマスキングテープを巻きつける作業をしなければなりませんでした。
分解後にチェックすると、やはり、輻の嵌り方が均等ではなかったことがわかりました。外輪に穴を開けたときにわずかな傾きがあり、結果、輻を外輪に挿入するときにわずかなずれを生じたとしても、影響するのは中心部なので車輪としては無視できない歪みとなって現れます。
今度は三度目の接着となります。
輻の車軸側の、歪みの原因と思われる箇所をデザインナイフで少しずつ削り、締め付けなくとも治具上で水平(車軸に垂直)になるように調整しました。
これで失敗するはずがない、というくらいに段取りを整えて、三度目の接着をします。
結果、これまでの車輪製作で最小といえる歪みとなり、合格としました。
また、車輪の車軸への組み付けにおいても、特に問題は生じませんでした。
再び、木固め塗装などをやり直して、本当に製作完了となりますが、車輪の製作方法として、全体としての構造・工法がこれでよかったか、これが最善かは、確信はありません。
「バラの花車の製作」は次回で完成となります。