バラの花車の製作 27:完成

車輪の組み直し、という予定外の工程が入りましたが、ともかく完成までこぎつけました。

作業工程を写真にまめに撮ったのは、初めてのことです。

写真の日付を見ると、ニュー・ドーンの大枝の加工を始めたのが2015年3月17日、轂を旋盤加工して木固めしたのが4月4日、このあと5ヶ月ほど間が開いて(私は暑さに弱く、しかも西日の当たる作業場に冷房がないため非常に暑くなるので、夏季は工作はできるだけ避けます)、9月3日に車軸を作り始めています(この年の夏は確か短かったかと記憶します)。車輪がいったん完成したのが11月2日、軛を轅に接着したのが12月4日、車体・車輪の仮組みをしたのが12月18日です。榻が12月30日に組みあがり、同じ日に花車自体を組んでいます。

いったんほかの工作をやっており、車輪を分解したのは2016年2月7日、最後の接着が2月18日、完成写真(上掲)は3月17日となっています。

中断をはさんでいますが、その時期も含め、期間としては、ほぼ1年かかったということになります。

 


 

車両としての花車はこれで完成ですが、私の目標はこれで達成されたわけではありません。

バラの花車を使ってバラの花を生ける、という構想がありました。

花を生けるには、花入れが必要です。これもバラで作りたいところです。

作業期間中に、エグランティンの大枝(幹)が剪定となりました。乾燥期間がやや短いものの、材の状態を見て、使用可能と判断しました。これで花箱を作ります。

これも、製材、矧ぎ接着、研削、留め加工、組立て、といった過程で製作しました。

材の状態は、かなり草臥れていましたが、古材らしく模様は盛大に出ていました。

途中で何度も木固めをし、最後に防水のためのクリヤ塗装を厚めにして仕上げました。

塗装にかなり苦戦しましたが、製材の開始が2016年1月27日、組上がりが2月9日、塗装終了の日がわかりませんが、完成後の写真に4月6日というのがあります。

下のようになりました。

バラ(エグランティン)の剪定材で製作した花箱

 

自宅にはミニバラがないので、当初はミニバラを買って生ける予定でした。

ところが別材で試作の花車・花箱と造花のバラとで生け花の練習と実験をしたところ、ミニバラではなく普通サイズのバラでも、全体として十分バランスが取れていると感じましたので、庭の普通サイズのバラを入れることにしました。

 


 

なお、実物の花を生ける場合の荷重に対する花車の保護のため、支え台を作り、車軸の下に置くことにします。

これは、いわば黒子ですので、バラとは別の材で作るべき、と考えました。花車と一体とならないほうがよい、ということです。
ブラックウォールナットが、バラとは風合いがまったく違い、丈夫でしかも黒っぽくて目立たないので好適、と考え、下のような台を製作しました。車輪が浮くかどうかというぎりぎりの高さです。

こうして、花車と花箱が完成し、生け花をする用意もできました。

 


 

バラの花車・花箱については、こちらのページ

バラの花車を使ったバラの生け花については、こちらのページ

でご紹介しています。

 

サイトのトップページにもある画像ですが、バラの花車に、バラの花を生けた作例です。

バラの花車とバラの生け花の作例

ニュー・ドーン(正面)、アプリコット・ネクター(向かって左)、エブリン(上)、ファンタン・ラトゥール(右奥)、グラハム・トーマス(右)が生けてあります。

これらは、この花車の材料となった剪定材を得た株から咲いた花で、この花車が、剪定で得た材によってできていることを示していて、私にとってはかなり重要な作例となります。

花と花台が、同じ植物のものである、というところも、多少手品めいていて面白いと思います。

 


 

長い製作記となりましたが、最後までお付き合いありがとうございました。

はじめにバラの枝材を切断するところから、それぞれの形にしていくまでの過程をお見せすることで、バラ工芸の実際を、より具体的に体感していただけるかとも考え、拙い製作場面を公開させていただきました。

剪定されたバラの枝が、木材としてはどういうものなのか、についても、その一端はお伝えできたかと思います。

 

ただの枝の切れ端が、意味を持つ「何か」に形を変えていくとき、大げさに言えば、新たに輝きを放ち始めるような感動すら感じることがあります。

バラに限らず、他の庭木などでも、同様のことが言えるかと思います。

材として流通している立派な木材だけが価値を持つわけではありません。普通は剪定ゴミとして扱われ、木材とは到底みなされないような、庭木のただの枝切れにも、手間をかければそれぞれの面白さがある、というささやかな例として、バラ工芸が何らかのインスパイアのきっかけになれば幸いです。

 

次回以降、更新の間隔・内容とも不定となりますが、マイペースで更新していきたいと思います。

バラの花車の製作 26:車輪の分解と再組立て

花車の構想段階から、「車輪にはこだわりを持つ」としてきました。

今、花車が組み上がってみると、車輪だけが、問題のある出来になっています。
いわゆる「公式側」の車輪が、車軸に対して垂直ではなく、わずかに斜めになっている問題です。

当初は、車輪の傾きは、「あるにはあるが、花車を動かしたときに車輪が振れているようには見えない程度のもの」という認識でした。

しかし、それは、ゆっくりと短い距離を動かしているからであって、長い距離をそれなりの速度で動かすと、振れていることは明らかでした。

もうひとつの車輪(非公式側)は、振れが非常に少なく、これは問題なしとしましたが、公式側の車輪は、ほかの木材で試験的に作った車輪を含め、振れが最大でした。

・どうしてこうなったのか、がひとつの問題。

・車輪を分解して組みなおすのか、がさらに深刻な問題。

木固め塗装を施した後でもあり、分解補修にはリスクが伴います。優良な木材はほとんど使ってしまい、新たに作るような余裕は到底ありません。うまく分解できなければ、全体として失敗となります。

しばらく問題を放置し、他の工作(花箱など)をやりながら、かなり悩んだのですが、出来に満足がいかない以上、分解することにしました。

 


 

木工用ボンドによる接着は、十分な水分と熱を与えれば、外すことができる、というのがネット情報でした。実際、床板の製作で、いったん接着乾燥した部材をやかんの沸騰水蒸気で外したことがありました。

今度の場合、接着部が奥まっていて見えない場所であること、木固め材がどの程度影響を及ぼしているか不明であること、そして、分解したくない部分があること、が問題でした。車輪外輪は、きれいな円盤になっているので、ここの接着は緩ませてはいけないわけです。

分解に先立って、沸騰水蒸気を当てたくないところに、保護材を当ててマスキングします。

沸騰水蒸気が車輪本体を破壊しないように、車輪の両側を、MDFから製作したドーナツ状部材で覆い、隙間をマスキングテープでできるだけ塞ぎました。輻と輻の間にも、細く切ったマスキングテープを通してあります。
また、轂もマスキングテープで覆って、木材をいためないように準備します。

やかんをカセットコンロにかけ、沸騰水蒸気(湯気)を勢いよく出させて轂と輻の接着面付近に当て、時々捩ったり捻ったりしながら、慎重にはずすことを試みます。

何とか外れました。下は、分離したあと、古いボンドを除去した後の状況です。

 

さて、次の問題は、傾いた原因です。実はこれがわかってませんでした。

上の写真に写っている車輪接着治具に、精度の点には絶対の信頼を置いていましたので、おそらく治具への取り付けに甘さが(作業上のミス)あったのであろう、という判断で、慎重に作業して、再接着をしました。

それが冒頭の写真です。成功しているつもりなので、なんとなくムードのある雰囲気に撮る余裕がありました。

 

 

ところが、結果は最初と同じでした。最初と同じだけ、傾いていました。

再び葛藤です。何度やってもこれなら、そういうものと割り切るしかないか、という思いもおきてきます。今度再分解したときに、分解に失敗する可能性もあります。
妥協するか、またやり直すか。

再分解するか決断する前に、今度は原因を真剣に考えました。

同じ失敗をしたということは、作業の問題ではなく、それ以前に原因があったことになります。

とすれば、輻が均等に外輪に刺さっていないことと、輻が外輪にしっかりと嵌っていて、遊びがないために治具による接着時に修正が効かなかった、ということが原因として推察されます。

試作段階で他の木材(欅など)で作った車輪では、輻が嵌る穴が大き目で、しかもかなり浅かったので、治具での接着段階で矯正ができていたようです。輻と外輪はボンド付けしていないので、比較的に簡単に動いたということです。ここから組立て用治具への過剰な信頼が生じていました。
本番では、穴が小さくて深かったため、輻の外輪への嵌り方ははるかに硬くしっかりしていました。

それならば、ということで、再分解して修正することにしました。

どこが傾いているのかをあらかじめ記録した上、再び沸騰水蒸気による分解をしました。
さきに使ったMDFのドーナツ状部材は、水蒸気で波打っていましたので、新たに作り直し、再びマスキングテープを巻きつける作業をしなければなりませんでした。

分解後にチェックすると、やはり、輻の嵌り方が均等ではなかったことがわかりました。外輪に穴を開けたときにわずかな傾きがあり、結果、輻を外輪に挿入するときにわずかなずれを生じたとしても、影響するのは中心部なので車輪としては無視できない歪みとなって現れます。

 


 

今度は三度目の接着となります。

輻の車軸側の、歪みの原因と思われる箇所をデザインナイフで少しずつ削り、締め付けなくとも治具上で水平(車軸に垂直)になるように調整しました。

これで失敗するはずがない、というくらいに段取りを整えて、三度目の接着をします。

結果、これまでの車輪製作で最小といえる歪みとなり、合格としました。

また、車輪の車軸への組み付けにおいても、特に問題は生じませんでした。

再び、木固め塗装などをやり直して、本当に製作完了となりますが、車輪の製作方法として、全体としての構造・工法がこれでよかったか、これが最善かは、確信はありません。

 

「バラの花車の製作」は次回で完成となります。

バラの花車の製作 25:組立て

これまでに製作した各パーツです。

車輪

欄干

轅・軛を含む車台

車軸(このほかに車輪留め(楔)があります。)

そして榻です。

 

花車の完成に向け、パーツを組立てていきます。

車台と車軸を結合します。

床板と欄干を結合します。

車台と床板を結合します。

最後に車輪をはめ、楔でとめます。

 

榻に載せればすべて完成、というところなのですが。

 


 

ほかの部分がしっかりできているので、やはり気になるところは気になるのです。

正面向かって右側(公式側)の車輪です。

 

次回は、公式側の車輪の分解と再組立て、の有様です。

バラの花車の製作 24:榻

榻(しじ)については、ネットの画像で様々な牛車の榻を観察し、標準的と思われる形状(外観)を、それらしく、しかも作りやすい構造で表現することにしました。

ここが大雑把になると、全体の印象に影響を与えますので、それなりに精密感・密度感を出すようにします。

この端材から榻の天板を製作します。

サイズ的にはぎりぎりですが、もう材があまり残っていないのです。

製材して直角に切断し、天板とします。

当然のごとく治具を用意しました。上は90度切断用治具です。

轅を製作した材の残りです。ここから榻の脚(鷺足:さぎあし)を製作します。

製作途中の状況です。脚の上下面を平行に作るため、垂直面のある型紙を用意します。

垂直の面を基準に、鷺足の上下を直角に切断して平行面を作ります。

 

途中の画像がありませんが、榻のパーツがすべてそろった状況です。

上段左から、天板・底板・中板(本来は中空ですが製作上の便宜で一枚板です)下段左が鷺足下部材・鷺足上部材、3つあるのが中板端面材(予備1個)、薄い2枚が中板柱材です。右上の4枚は余り材です。

部材を接着していきます。強化ガラス板の上での作業です。

底板上面に、中板を貼り、中板の両端面に、中板端面材を貼ります。次に四隅に鷺足上部材、中板中央部に中板柱材を接着します。
そのあと裏返して、ベルトサンダーで面一に研削します。

底板下面に、鷺足下部材を接着します。

天板を接着する前に、高さの調整をします。
天板を載せたときの榻の高さが、花車の軛を載せたときに、床板が水平になるように、中板を含む面を、ベルトサンダーで研削して慎重に調整します。

調整が済んだら、天板を接着します。

余分なボンドの除去、仕上げの磨き、木固めをして榻は完成です。

 

これで花車のすべての部分が完成しました。

次回は組み立てに入ります。

バラの花車の製作 23:車軸(2),仮組み

車軸部を仕上げます。

四角柱部に円柱部を挿入して接着します。

四角柱の両端と、円柱の楔の間に車輪がちょうど納まるようにする必要があり、円柱部の位置合わせ(挿入量)はかなりシビアになります。
あらかじめ接着剤をつけて挿入すると、途中で固まってしまう可能性が大です。

そこで、四角柱に別に横穴を開け、円柱を挿入して位置が決まった後で、四角柱の穴から接着剤を入れて、わずかな接着面ではありますが、四角柱と円柱を固定します。

この後、木固めエースによる含浸塗装をすれば、木固めエースが両材の隙間に浸透・固着して、接着剤の役割を果たすであろう、という目論見です。

やや白く見えるのが、ボンドを流し込んだ後の接着用穴です。その外側は、車台との接合用のピン穴です。円柱の両端は、もちろん車輪留め(楔)用の穴です。

四角柱の一方の端に「公」の文字が小さく見て取れます。
部材には左右の区別があり、これがわからなくなると困るので、蒸気機関車に倣い、正面から見て右側になるほうを「公式側」として区別します。こうしておくと、公式側・非公式側は、右・左よりも曖昧さがないのでわかりやすいのです。


車軸・車輪を車台に仮組みしてみます。

完成した車輪・車軸・車台です。左上は欅による榻の試作品です。

仮組みした状況です。榻は欅製を使っています。

小さいですが重量感もあり、なかなか格好良くできていると思います。

少し動かしてみましたが、前後進・回転とも、スムーズです。

これは前から見た状況です。

これも格好良いのですが、よく見ると、やや不安を感じさせる写真です。

向かって右側、上述の「公式側」の車輪が、少し傾いているのではないか?
しかし、写し方の関係、とも解釈できますし、このときは、許容範囲、として問題視していませんでした。


糸鋸盤で大羽・小羽を取った作業の端材から、車止め(地面に置く車止め)を製作します。

完成した車止めです。
右に写っているのはニュー・ドーンから作った鉢です。節のある大きな端材をもとに、結構手間をかけて作ったのですが、小さすぎで用途がありませんでした。

 

次回は榻の製作の予定です。