バラの花車の製作 5:車輪(2)

まずは、写真右のような半切りの丸太を、左のような耳つき板に製材します。

留意すべきことは、

  • 中央部の髄が完全に削り落とされていること(木裏側)
  • 木表側は、木材部分の幅が、目標となる板材の幅以上か、少なくともその近くまで取れていること
  • 板の厚みが、おおむね平行になっていること

です。板の厚みは、デジタルノギスでこまめにチェックします。
ちなみに、デジタルノギスは金属製なので、刃にセロハンテープを貼って木材を保護するようにし、ゼロを校正して使います。木工レベルでは十分な精度を保っていると思います。

研削には、ベルトサンダーを使います。写真の背景のごちゃごちゃは目に入れないようにお願いします。

ベルトサンダー(ベルトディスクサンダー)は、重く、うるさく、膨大な粉塵を撒き散らす電動工具ですが、強力な研削能力を持っています。伝統工芸などではあまり使うことのない工具と思いますが、私のバラ工芸では頻繁に登場します。値段も比較的に安いです。

粉塵が勢いよく出ますので、掃除機での吸塵・集塵機や空気清浄機の稼動・防塵マスクの着用・他の部屋や屋外への粉塵の拡散をできるだけ防ぐ措置、などが必要になります。

ベルトサンダーを使うときは、強く押し付けすぎないように注意します。材が持っていかれそうになったとき、強く押してとめようとすると、摩擦が強くなってかえって持っていかれます。また、材が薄くなってくると、指(皮膚)を削らないように注意が必要です。

この厚さ(5mm程度)ならばまだ指で持ったままやれますが、さらに薄くしていくには工夫が必要になります(後述の予定です:ちなみにバラ扇のときは、厚さ1mmを切るレベルまで薄くしました)。

この作業は、豚革手袋をすると、かえって作業が曖昧になり、また痛んだ豚革が危険をはらみますので、素手で作業するようにしています。

ベルトの番手は、120番~240番がメインだったかと思います。特に120番のときは、指を擦らないように注意が必要です。


表裏を製材し終わった状況です。右の二個は、端材から、予備(小羽用)に製材したものです。

ここからさらに耳を落として六面体にしていきます。

やはりベルトサンダーを使いますが、側面のどちらか一方を、作業上の「基準面」としますので、表裏面との垂直をなるだけ正確に出すことに留意しつつ研削します。

製材が終わった状況です。一部皮が残っていますが、後の作業で切断されるところですので問題ありません。矢印が見えるのが基準面を示します。

ここまでくるのに一苦労です。次回はいよいよ大羽・小羽を作っていきます。

バラの花車の製作 4:車輪(1)

車輪製作の作業の段取りとしては、さしあたり、大羽・小羽を切り出す→大羽・小羽を組み合わさるように成型→接着して環状にする、といった順序になります。
きれいにドーナツ状にしたり、輻を入れたりするのは、その後に行います。

およそ5.5cmくらいの長さで、枝をコノギリで切っていきます。写真のような簡単な治具を当てます。

原木の枝は不定形なので、しっかり固定することが一般にはできません。手で固定しながらの作業となりがちですが、危ないので、材を押さえる左手に豚革手袋をはめて作業します。

切断を終わったものがこちらです。木片が6個ですが、先行して加工したものがあと1つあります。

この木片1個から、板材2個をとります。断面を見て、2枚取れる方向を確認してから、下のような治具を使って切断しました。

※ なお、治具という言葉は、本来は、位置決め・案内、という機能を持つ道具をいうようですが、本ブログでは、工作・加工のために用いる自作の小道具類全般を指すものとして広く使っていますのでよろしくご了解ください。

この切断治具、ほかのバラ工芸のときにも結構使ったのですが、使い勝手はよくありません。固定しづらい、切断に伴いきつくなってノコギリが入らなくなる、ゆるくすると木材が斜めになってくる、勝手に外れることがある、など、効率的でなく、精度や安全性にも問題があります。

単純に二分割する場合は、糸鋸盤を使うのが効率・精度・安全性のいずれにおいても勝ると思います。

切断し終わったものです。上に見える二枚は、先行して加工を進めていたものです。

全部で14枚です。ここから、左右の車輪2つ分の大羽・小羽(14枚ずつ)を得なければなりません。つまり、失敗は許されない、というところです。

次回は、これらを板材(六面体)に研削していきます。

バラの花車の製作 3:構想・準備(3)

今回、手元にあったバラの枝材です。ニュー・ドーンの幹で、まずまずの太さがあり、長く、直線的で芯も詰まっている良材といえます。

この枝だけで花車全体が作れるわけではありません。この枝から、車輪の主要部となるところ(大羽・小羽・轂)が何とか用意できないか、という目論見でした。結果的にはぎりぎり足りました。

この枝の断面をじっくり見て、どのくらいの幅、厚さの角材が製材できそうかを考えます。そのサイズから、大羽の最大サイズが決まり、車輪径が決まります。

厚みを薄くすれば、幅を大きくできる関係ですが、あまり華奢なのも問題なので、幅は仕上がりで4.5mm程度、製材上5mm程度を目安にしました。

汚い字で恐縮ですが、設計途中の状況です。私はこういう作業にはあまりPCは使わず、手書きをする傾向があります。この図はまだコンパスと分度器と定規を使っているだけ格好がついていますが、フリーハンドのスケッチで済ませているものもたくさんあります。

車輪は大羽7枚のスタイルにします。大羽8枚のほうが、車輪を大きくできる可能性がありますが、8枚というのは、上下左右対称形なので、工作精度が悪いと、すぐにぼろが出るのではないか、という懸念があります。輻も、24本となり、工作上窮屈になります。ここは7枚の方が、収まりがよいと考え、また、(牛車の)実車でも、7枚のほうが多い印象を持ちました。

上記では、幅12.5~14mm、長さ32mm、厚さ4.7~4.5mmという数字が見えます。車輪径は58mmとなっています。wは、実車をそのまま小さくした場合の車輪の幅(推定)ですが、これだと模型サイズでは華奢に見える(構造的にも弱く、工作もしにくくなる)と考え、少し厚くします。

15mmというのは轂の直径、車軸が4.5~5mmというメモです。

小羽の形状にもいろいろあるようです。私の作った車輪は、上辺が山型ですが、実車では円周状になっているものが多いです。ここを円周状にする工作は難しく、また意匠的にも山型のほうがしっくりきましたのでこちらを選びました。小羽の端面(縦側)も、車輪中心に向かって放射状にするか、大羽の同士の端面と平行にするか、二通りあるようですが、私は放射状にしました。

大羽は、長さ32mmくらいでよい、といっても、工作上、倍近いの長さがないと、実際の工作ができません。大羽の端材から小羽を作る、といった段取りで、長めに木取りすることになります。


車輪以外にも、床板、轅、軛などが材料的に簡単ではなかったのですが、手持ちの材・端材を総投入すれば何とかなるであろう、という観測の元、製作にかかりました。

次回から、製材作業に入ります。

バラの花車の製作 2:構想・準備(2)

写真は、京都府宇治市の、源氏物語ミュージアムの再現牛車です。

なおこれは、実車画像をブログに載せるために、製作後に撮影に行ったものです。

牛車全体をバランスよく写すのはなかなか難しく、後ろからの構図となりました。室内で、かなり暗かったので、画像処理で明るく処理しています(こういった場合RAWでの撮影は便利です)。

源氏物語ミュージアムの牛車は、金具による装飾もほとんどなく、簡素な造りです。また葵祭や時代祭の牛車と異なり、おそらく一人用の小さなものです。個人的にはこれはこれで好ましい感じがします。

牛車には、その部分部分を表す独特の用語があります。花車に関連する限りで、調べたものを書き込んでみました。

牛の肩にかかるところが、軛(くびき)、軛から車輪側に伸びる腕が、轅(ながえ)です。

軛の乗っている台は、榻(しじ)といいます。

複雑なのは、車輪です。

車輪は、多くの部材の集合体となっていて、輪を構成するのが、大羽(おおば)と小羽(こば)です。中央には轂(こしき)があって、中心を車軸が貫通し、楔のようなもので留められています。轂から大羽・小羽に放射状に輻(や)が伸びていて、スポークになっています。

大羽・小羽と輻の関係には、構造上の決まりがあります。大羽と小羽が互い違いに合わさり、輻が小羽を貫通して大羽に嵌ることで、大羽同士がしっかり結合します。それが輪になることで、全体としてがっちりと組みあがる、という仕組みです。

つまり、輻は、小羽の両側と、大羽の中央に嵌るわけで、大羽1枚につき、輻は3本という関係になります。

これは現代でも、木製車輪一般に広く見られる構造だと思います。祇園祭の山鉾の車輪も確か同じです。

大羽の枚数は、7枚か8枚が一般的とされています。つまり、輻は21本か24本、となります。

このタイプの車輪は、部材をばらばらに分解できる構造です。どうやって分解し、どうやって組み立てるのか、詳細はどういう組み合わせ方なのかまでは、あまりよく知りません。

車輪については、屏風絵などの2次元の表現では、構造的に正しいもの、意匠的に省略があるもの(輻の本数が少ない)などさまざまです。また、3次元の模型でも、小さいものはたいてい省略・改変があります(多くの場合、車輪のドーナツ状の部分は樹脂あるいは一枚の木材からの成型です)。

バラ工芸の場合、剪定材というサイズ上の制約から、車輪を大きな木材からドーナツ状に削り出すことはできず、はじめから、大羽・小羽をそれぞれ作って接合するタイプにならざるを得ません。それならば、バラ工芸の制約を逆手に取って、車輪については少しこだわってみようと考えました。

とはいえ、車輪の構造を、小さなサイズですべて再現するのは困難で、精度的にも不利になります。分解できるレベルまでにする必要はない、というのが私の考えですが、その雰囲気(外観)はなるべく維持したい、というのが車輪に関する要求となります。具体的には、大羽・小羽の枚数と組み方、輻の本数と位置、轂の車軸への留め方、が外観上実車に即していることを目標としました。

次回は、以上をもとに、実際のバラの枝をもとに設計をしていきます。

バラの花車の製作 1:構想・準備(1)

ここしばらくは、バラの花車の製作記をメインに記事にしていきたいと思います。

現在進行形ではなく、出来上がったものの製作過程の公開、といった形になりますが、よろしくお付き合いいただけたらと思います。


何年かやってきたバラ工芸について、やや集大成的なものを製作しようと考え、候補となっていたのが花車でした。ただ、材料的に不利なバラ材で小さな、つまり模型的な花車を作ることに意味があるのか、逡巡もありました。

迷った末、ただの花車の模型(置物)ではなく、ミニバラくらいは活けられたらよいかな、という考えに至り、ともかく製作にかかることにしました。また、花を活けるということを考えたとき、より構造の複雑な「牛車」(の模型)は、自動的に構想から外れることになりました。

基本スペックとしては、

  • ミニバラくらいは乗る。
  • 車輪は、実車(牛車)に準じた構造にする。
  • 車両として、実車同様にに回転・旋回できる。

といったあたりを立てました。ともかく車輪を最大のポイントとしました。

牛車には「実車」があり、源氏物語にも出てくる典雅な乗り物、というイメージがありますが、花車については、実のところよくわかりません。一言で言えば、「牛車の雰囲気のある花台」ということになりますが、花を飾るためのものなので、牛車サイズである必要も、牛に引かせる必要も特にありません。

花車の古い例として、屏風絵などに2次元のものを見ることができ、京都御所にも花車の扉絵があるようです。一方、3次元すなわち実車がどこまでさかのぼるのかは、ネットで軽く調べた程度ではわかりませんでした。花台としての実車よりも絵や着物の柄のようなモチーフとしてのほうがよく登場する印象があります(平安調の車と花で典雅なイメージ)。

これはお手本となるような花車の実車がない、ということでもあります。


ということで、基本線としては、牛車の実車になるべく近い構造にしつつ、小型化に伴う省略や、花車とするための改変を伴う、という方向で行くことにしました。

牛車の実車については、ネットでも、葵祭りに使われる立派な牛車などの画像があって、それなりに資料が得られます。

次回は、比較的地元の「源氏物語ミュージアム」にある再現牛車をもとに、車輪の構造を見てみたいと思います。